ニューヨーク不動産を共同購入する場合のトラブル(後編)。
前回の記事をポストしてから色々なお問い合わせをいただきましたが、何人かの方から実際に起こった共同購入でのトラブルや苦労話をシェアしていただきました。今回はその話をも含め、マルチファミリーハウスを共同居住目的に購入した際のトラブルについて、特に各ユニットの価値の差についてお話をしたいと思います。
例えば、1.8Mの3ファミリータウンハウスを3家族で購入すれば、計算上は1家族あたりの物件購入額の負担は単純計算で600Kですみます。
2ベッドルームの家をコンドミニアムとして購入した場合、それよりもはるかに多くの資金が必要であることを考えれば、気の合う友達家族と一緒にタウンハウスを購入し、それぞれがその中の1ユニットに住むというのは、あるいみわかりやすい図式であり、一見すると理にかなっています。
しかしトラブルの多くは、それぞれのユニットが等価ではないということに起因します。これを1.8Mの3ファミリータウンハウスを例にとって考えてみたいと思います。
例えば、右の図(下手な手書きの絵でもうしわけありません)は典型的な3ファミリータウンハウスの例です。
1階部分はバックヤード(裏庭)がついていて、エクステンションがあるため床面積が他のユニットより広くなります。また下には誰も住んでいませんので歩く音を気にする必要はありません。
3階部分は景色と日当たりが最もよいユニットですが天井は低めであり、階段で3階まで上がらなければなりません。
2階のユニットはといえば、1階のように道路には面していないので安全面では1階よりも高い安心感があります。また1階よりは日光もよく入り、階段も3階と比べてそんなに大きな負担ではありません。
このような3つのユニットがあるタウンハウスが1.8Mだった場合、各ユニットの価値、あるいは購入時の支払額は600Kずつではないことは容易に想像がつくと思います。
では1階が最も高額で次が2階、そして3階の順でしょうか?それぞれのユニットの特徴を不動産価値の面からさらに見てみましょう。
まず、1階部分はベースメント(地下室)へのアクセスがあります。これは、例えば地下を共同のストレージとして使用することに決めた場合、1階はベースメントへのアクセスが楽な反面、他のユニットの居住者が1階のユニットを通ってアクセスをする必要が出てきます。
また、ボイラーや給湯タンク、あるいは上下水道の配管などはすべてベースメントにありますので、何かのトラブルがあった場合には、修理のためのアクセスはもとより、1階は他のユニットと比べより大きなダメージを受ける可能性があります。
しかし、エクステンション(建て増し部分)がついていることを利用して例えば自分たち専用洗濯機と乾燥機を取り付けることができるかもしれませんし、バックヤードがついている上、下に誰も住んでいない1階は、パーティーなども行いやすく魅力的です。しかも1階はビル内で最も天井が高いことが多く、単純な床面積だけでは計算できない魅力があります。
逆に3階はといえば、屋根を直接天井として使っているのは3階だけです。屋根から水漏れはタウンハウスでは最もよくあるトラブルの一つですが、3階ユニットは屋根を直接天井として使っているため、雨漏りがあった際にはダイレクトにダメージを受けます。しかし屋根というのは建物の構造の一部であり、修繕は建物の保全という観点から、全ユニットがその費用を共同負担するというのが一般的です。
このような時、屋根を完全に張り替えてしっかりと雨漏り対策を行う場合と、とりあえずパッチを行い様子を見るような修理の場合では、そのコストに大きな差が出ます。自分が3階に住んでいれば、当然しっかりとした修繕をしたいと考えますが、そうでない他のユニットオーナーは、高額の修理コストの負担を笑顔で受け入れるかどうか疑問です。
しかし、3階は最も日光がよく当たり景色もよいユニットです。そして自分の上には誰も住んでいませんから、足音やノイズを聞くこともありません。
では、ベースメントもバックヤードもない2階はどうでしょうか?階段はそんなに負担にはならず2階の安心感もある反面、自分の上にも下にも人が住んでいますから、上階からのノイズが聞こえてくることに加え、下へのノイズに気を遣う必要もあります。また仮に将来誰かに貸し出すこと(今回は割愛しますが、貸し出す場合もトラブルの原因になります)を考えると、2階のユニットは最も貸し出しやすいユニットです。
どうでしょうか?
1階:600K、2階:600K、3階:600Kでないことは明快なのですが、それではどのように価格付けすればいいのか、今あげたような各ユニットの特徴を考えただけでも非常に難しいことがわかると思います。
そして、これらのことは一般的にそれぞれの要素によりどの程度の価格差ができるかということ以上に、それぞれのユニットに対するメリット・デメリット、あるいはその魅力を、購入する3組のオーナーがどの程度評価するのかということと、さらにその評価を全員が納得できるかどうかによって大きくかわってきます。
また、各ユニットの価格配分は、購入時には納得して支払ったにも関わらず、実際に暮らし始めると、心の中に様々な思いやわだかまりが生まれてくるものであり、結果としてすっきりとしない状態で住み続けるというようなことも多くあります。
そして購入時には見えなかった新たな価値の差が、ビルディング自体に何かのトラブルが起こった場合には顕在化してくることが多くあります。
実際、ご連絡をいただいた方の中には、当初の価格設定が不公平だったということを数年前に他の共同購入者に相談したことから人間関係がぎくしゃくし始めたというお話がありましたが、我々不動産エージェントが判断するような単純な不動産価値とはことなり、それぞれのオーナーの価値観や考え方の差、あるいは感情的な部分が大きく影響することが、居住購入を目的とした共同購入の難しさといえます。
特に、共同居住自体が目的ではなく、お金のセービングが目的で共同購入を考えているという場合には、我々不動産エージェントが想定するビルディング自体あるいは共同居住に関わる将来的なトラブルの可能性を十分に精査した上で決断することをおすすめします。